私は何故こんなにも竹内敏晴にこだわり続けるのだろう? 5 「ソマティック心理学協会」との出会い

 ここで方向を転換し、最近のことに戻る。

 「魂の暗い夜」にいた私は、ケン・ウィルバーの著作に一筋の光を見た。いろいろな人にケン・ウィルバーの言っていることをどう思うかと問い合わせた。しかし、はかばかしい返事はもらえなかった。そうしているうちに、ウィルバーの理論を日本において紹介した本「インテグラル理論入門」で久保隆司さんの名前を知った。そして、彼の書いた「ソマティック心理学」を読んだ。
 日本においてケン・ウィルバーのいう「インテグラル・ライフ・プラクティス」がどのように行われているのかということを、久保さんにメールで問い合わせた。
 久保さんはすぐに返事をくれた。「インテグラル・ライフ・プラクティス」については、一つのまとまったプログラムではなく、一人一人が自分なりにそれぞれさまざまな「プラクティス」を組み合わせて行うものであるといったようなものであった。
 久保さんからはそれよりも、「明後日(2017年5月2日)、ソマティック心理学協会の集まりがある。それに参加してフリートークを10分ぐらいの短い時間であるがやらないか」という提案があった。ソマティック心理学協会には、竹内研究所で一緒だった瀬戸嶋充が世話人として参加している。彼と二人でフリートークをしないかというのだ。
 「日本ソマティック心理学協会」は、2014年に設立している。「学会」ではなく、「協会」である。
 「ソマティックス(身体学/身体技法」、「ソマティック・サイコロジー(身体心理学・心理療法)」,
「各種の身体的アプローチ(ダンス・ムーブメント、リトミックなどなど)」などの広義の「ソマティック心理学」の実践者の交流の場として設けられている。

 私はメールで長く竹内敏晴のもとでレッスンをやってきたものだが、という短い自己紹介をしただけだが、全く初めての問い合わせをした人間に、会の「フェスタ」に参加してフリートークをしないかという。
 何かオープンさを感じた。カリフォルニアの香りがする。サンフランシスコの北400キロのところで行われる「Winnarainbow]」というサーカス・ワークショップに出たときのことを思い出した。ここでは午前中にレクチャーやったことを、昼食前にみんなの前でともかくやらせる。驚くべき大胆な自由さだ場所だった。

 「フェスタ」の集まりの進行が流動的なものであり、いつあるいは確実にフリートークができるかどうかもわからないものであった。ともかく私は機会があれば、瀬戸嶋充と二人でフリートークをすることを承諾した。
 何か気になるものがあって、クラウン(道化)の赤い鼻だけを数個持って行った。
 瀬戸嶋充と相談したが、ともかく流れにまかせようというだけだった。

 午後の少し遅い時間にフリートークが始まった。私は竹内敏晴という人の紹介から始めた。しかし、話しているうちになにからちが明かない感じがして、トークを中断して、クラウン(道化)の赤い鼻を持ち出し、それをみんなの前につけて見せることにした。

 フランスのジャック・ルコックが、演劇のスタイルの一つとして、クラウン(道化)を現代的に復活させた。竹内敏晴は、それを学び自分流に日本人向けに取り入れた。
 仮面のレッスンのうち、キャラクター面はその面の特徴に注意してつける。赤い鼻もキャラクター面の一つに分類される。世界で一番小さなキャラクター面である。

 30人ちょっとぐらいの人の前で、みんなに見えるように、赤い鼻をしばらく見て、 自分の鼻につけた。
 つけた瞬間、何かが変わる。全身が変わっている。自分のからだを抱えている。震えているのか。この後何をやったのかもうあまりはっきり覚えていない。声を出したのは憶えている。歌とも言えない歌を歌ったことは憶えている。見ている人たちを見たが、あまり何を感じているかわからない。少しだけ動いて、それでやめた。

 その後、瀬戸嶋充が「久しぶりだ。」と言いながら、自発的に赤い鼻をつけた。
 それが終わったところで、久保さんから「二人で一緒につけたらどうか?」という提案があった。

 二人で一緒に赤い鼻をつけた。しばらく自分に集中している時間があった。そうするうちにかなり離れたところに、一所懸命頑張っている何かがいることに気がついた。目の前のことに踏ん張っている。私には子どもが泣きそうになっているようにも見える。
 近づいていくと、私のからだに力が入ってきてなかなか動くのが大変になってくる。私のからだがら声が出てくる。悲しみの泣き声である。2,3メートルの距離のところで、私は起こってくる情動でいっぱいになり、周囲のことが何も分からなくなる。気がつくと、遠くにいた存在が私に近づいていてくれた。情動は消え去り、私はその存在の背中にふれた。そして、明るくなり、見ているみんなの方へ二人でお辞儀をした。

 クラウンのレッスンというより、「出会い」のレッスンのようになった。

 私は赤い鼻をつけた状態がどのように受け取られるのか心配な面もあったが、おおむね好評のようであった。中には感情をゆすぶられた人もいたようである。
 クラウンは、「心理」というより「生理」に近い反応を引き起こす。情動による伝染である。

 ここに集まっている人たちは、「からだ」の専門家が多いので、特段奇異に感じることもなく、受け入れてくれたようだ。
 
 

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